学生時代のこと。春の健康診断って、混むし待たされるし特に病状もないし、と例年通りサボっていたところ、「前年に発生した結核対策のため、健康診断を受けない人には単位を出しません」との突然のお達し。慌てて病院にX線を撮りに行く羽目になりました。(当時慌てたのは、どちらかといえば結核の驚異よりは単位を落とす恐怖で、事実学生の達の受検率は大幅アップしたそうです。)それにしても今時結核とは・・・。
結核とか療養所なんてもう過去のものだと思っていました。
このように抗生物質の発見以来、細菌による感染症の多くは治療法が確立され、世間からほとんど危険視されなくなっています。それに清潔な日本では、食中毒もほとんど心配いりませんよね。
そんな隙をついて身近に細菌の逆襲が迫っている、というのがこの本の主題です。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、再燃する結核菌、重篤な化膿連鎖球菌、毒性の高い大腸菌O157・・・。薬の効かない感染症、新しいタイプの菌による感染症が問題になってきたのです。
同様の問題を取り上げた本も多い中、この本の素敵なところは、細菌学の歴史や基本的な感染・免疫の機構、代表的な細菌についてなど、基礎からかなり丁寧に解説がされていることです。それでいて、話の中心となる抗生物質の耐性では、抗生物質毎に細菌の遺伝的特性をふまえて解説するなど、専門的にも満足のいく、とても内容の濃い一冊となっています。
どちらかというと教科書的な内容ですので、読み物としては向いていませんが、生物学の知識があり細菌学について少し突っ込んで学びたい方にはオススメできます。新書ながら微生物学(特に細菌学)がこれ1冊で網羅できますので、学生であれば教科書より読みやすくよいと思います。
著者:吉川昌之介
中公新書 初版:1995年3月