本書は、沖縄ブームを作ったひとりと言われる著者が、そのブームの去った今、改めて沖縄に向き合い「癒しの島」でも「楽園」でもない沖縄について書いた本です。
なら戦争と基地問題でしょ?と思いがちですが、それだけではありません。
独自の歴史と文化が社会情勢と混ざり合って生まれた予想もつかない現在、知らなかった沖縄がそこにあります。
ヘルシーな食事で長寿の島だと思っていた沖縄のお年寄り(おじい、おばあ)はファストフードが大好きで実は不健康。
日本一貧しい県と言われる一方で、億単位の収入を得る軍用地地主が存在する驚くほどの格差社会。
夢と幻想を抱いてやってくる移住者はなかなか地元に溶け込めず、多くの人が本土に戻っている。
本土の人間は橋がかかって便利になると喜び、島の人々は文化が変わってしまうと嘆いている。
暢気に観光していては気付くことがない、日本(ヤマト)と沖縄の間の差別、偏見による深い溝。
出稼ぎや移民で海を渡った沖縄の人々の苦難とたくましさ・・・。
明るくない話の連続ではありますが、高校野球を熱狂的に応援する県民性がかいま見れたり(大阪は土地柄沖縄料理店が多いのですが、なぜか行く店皆、沖縄尚学か興南高校の優勝ペナントを飾っています。)現在のポップミュージック界を支える音楽が生まれた背景など、身近な話題もあり楽しめます。
個人的に面白かったのは中城高原ホテルについての章。このホテルはオープンしないまま建設途中で廃墟となり、今や廃墟ファンに大人気のポイントとなっていますが、ネットにある情報は廃棄探訪レポートばかりで若干消化不良でした。しかしこの本では、なんと当時の関係者のコメントや設計者まで紹介されていて驚かされます。
沖縄は、旅行に全く興味が無かった自分がはじめて”また行きたい”と思った特別な地ですが、青い海と白い砂を求めていては見えなかった沖縄の姿を知り、ますます興味が深まりました。
沖縄の「楽園」の顔も生活の場である「俗世」の顔も、それぞれ面白く飽きることがありません。
著者:下川 裕治、仲村 清司
講談社 初版:2012年2月