笑うカイチュウ

寄生虫といえば思い出すものはサナダムシくらいでしょうか。
中学・高校の頃、理科室にホルマリン付けの、出所も由緒正しいサナダムシがあり、皆で気持ち悪いなどと盛り上がったのを覚えています。

周りの人で寄生虫に感染したという話も聞かないし、回虫駆除や虫下しなどももう必要ない。
寄生虫なんて昔のことで、今の日本では気にしなくてもいいもの、という風潮が強いと思います。

しかし今になって、自然食ブームやずさんな手洗いなどによって回虫感染症が増えているというのです。
また、ペットから感染したり、海外で食事から感染するなど、あながち過去のものではないようです。

本書では、実は身近な寄生虫とその感染症について、たくさんの症例を挙げて非常にわかりやすく解説されています。
取り上げられている寄生虫は、感染ルートが我々の生活と密着したものに限られているため、すんなりと入ってきます。(学術書的な雰囲気はいっさいありません。)
代表的なヒトの寄生虫だからか、本の題名の通り回虫に関するエピソードが多くなっています。
本書の中で特に衝撃的なのは、皮下のコブがが出たり消えたり動いたりするエピソードです。顎口虫やマンソン裂頭条虫などという虫が体の中を動くことが原因で、淡水魚を生で食べたり、食通だと言ってドジョウの踊り食いをしたりして感染します。

感染して大変!というエピソード以外にも、「多くの人が花粉症になったのは寄生虫に感染しなくなったから」という、寄生虫と免疫の興味深い話も掲載されています。

寄生虫の名前もカナ表記に統一されており物々しい感じもなく、そもそもエピソードだけで十分面白いので虫の名前を気にする必要もありません。全てを通じて、あっけらかんとした文章で思わずくすっと笑ってしまうけれども、次の瞬間にはゾッとする、不思議な読み物という印象です。

私自身学生の頃、ある講義で動物に関するテーマであれば何でもOKと言われ、なぜか寄生虫をテーマにレポートを書きました。数日の図書館通いで数々の寄生虫と出会って以来、彼らが学問的に非常に魅力的なものだと思っています。
そして数年前、念願かなって目黒の寄生虫博物館を訪問した時は感動しました。(平日昼間雨だったからか、誰もいませんでした。)

久しぶりに読み返してみて、大好物のサーモンの刺身が少し怖くなったり、野菜はよく洗おうと思ったり。
興味深くはあっても、決して感染したいとは思いません。

著者:藤田 紘一郎
講談社文庫 初版:1999年3月