映画の乳首、絵画の腓

著者が好きな映画、絵画、文学等をこれでもかと語り尽くす1冊。

自身が本書を手にとった目的は、第二章のブラザーズ・クエイに関する評論、「エロティックな暴虐ーブラザーズ・クエイのパペットアニメ」。

エロティックな暴虐ーブラザーズ・クエイのパペットアニメ

ピーター・グリナーウェイ、デヴィッド・クローネンバーグとの関連にはじまり、アニメーション制作に本格的に取り組むまでの簡単な経歴。
続いて、処女作「人口の夜景」から、「レオシュ・ヤナーチェク」「ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋」を作成するに至る背景。
その後「ギルガメッシュ/小さなほうき」「ストリート・オブ・クロコダイル」「失われた解剖模型のリハーサル」についての解説、という構成です。
出版が1990年なので初期の作品のみ。

2017年版の帯が「エロスか死か!」と謳っているだけあって、切り口や表現は全編通して官能的。
ブラザーズ・クエイの作品自体、そこはかとないエロスが魅力(生身の人間は出てこなくても!)なところに、著者の語り口がマッチしていて、例えばこの「ギルガメッシュ/小さなほうき」のワンシーンの描写など、艶かしさに引き込まれます。

次の瞬間、エンキドゥのテーブルの上の女体めいた<生肉>を愛撫する。エンキドゥの一瞬の幻覚をとらえたこのショットはショッキングだ。甘美この上なく、しかも暴力的にむきだされた罠としての女体、食欲=性欲。

個人的に興味深いポイントは、評論として取り上げられることの少ない「失われた解剖模型のリハーサル」に触れられていること。

ちなみに2017年出版の「映画の乳首、絵画の腓AC2017」は、1990年出版の「映画の乳首、絵画の腓」を改稿し、最新評論を増補した新世紀増補究極版とのこと。
1990年版と2017年版で、ブラザーズ・クエイに関してテキストの変更はありませんが、ビジュアル資料が変わっています。
1990年版は2人の肖像、「失われた解剖模型のリハーサル」のモチーフについての解説、ブルーノ・シュルツの版画、で見開き4ページ。2017年版は2人のサインとスタジオの様子で見開き2ページ。写真の内容としては1990年版に軍配、という感想です。(ただ1990年版は今では古書店のみの取扱。)

実はこの1編、「ブラザーズ・クエイ コレクターズDVD-BOX」のリーフレットに掲載されているものと同じ内容です。(リーフレットはこれに加え滝本誠氏による作家へのインタビューもあります。)

ブラザーズ・クエイ以外にも、デビッド・リンチ、リドリー・スコット等々、魅力的なエッセイが満載なので、本書から様々な作品に出会えるのも楽しみです。

著者:滝本誠

映画の乳首、絵画の腓AC2017
幻戯書房 初版:2017年11月15日

映画の乳首、絵画の腓
ダゲレオ出版 初版:1990年10月18日