ゴールデンカムイのアイヌ語監修者の中川氏による、アイヌ文化の入門書です。
まずはアイヌ文化を理解する上で重要な「カムイ」についての解説。
「ゴールデンカムイ」がフィクションとして、いかに上手くアイヌ文化や北海道の歴史的背景を取り入れているか。
逆に「ゴールデンカムイ」では伝えきれていなかったり、本来はこうなのだ、というアイヌ文化についての補足。
監修者として「ゴールデンカムイ」にどのように関わっているか。アイヌの文法や方言で悩んだり難しかった出来事など。
漫画のファン目線でいくと、目玉は野田サトル氏の書き下ろし漫画(扉を含め6ページ)と、解説に添えられた漫画の抜粋でしょうか。
本文も、○○巻の○○話の〜と漫画のストーリーに照らした解説や、漫画の裏話的なものも随所に散りばめられているのも嬉しい。
ただ、まだ単行本になっていない本誌のネタバレ(19巻の収録範囲。かなり重要)があるので、単行本派の人にはちょっとキツい気がします。(個人的には本誌で読んでワクワクした話だったので、先にこれを知るのは、、、)あと、主要キャラの中では月島軍曹は出てこないのでキャラのファンの方は少し残念かも。
本書の前半は主に「カムイ」に関する解説で、かなり丁寧に書かれています。
やはり面白いのは「カムイ」が所謂一方的にあがめる対象としての「神」とは違うことです。
「カムイ」は、カムイの世界から人間の世界に、例えば熊の姿をして肉や毛皮などを”お土産”に遊びにやってくる。熊の死は、カムイが人間に受け入れられて”お土産”を渡すことに相当する。人間はカムイにまた”お土産”を持って来てもらいたいので、イヨマンテなどの儀式でもてなす。
このギブアンドテイクの関係を理解すると、アイヌの儀式をはじめ考え方全般の理解がスムーズになることがわかります。
「ゴールデンカムイ」作中では文化の解説に様々な物語が紹介されますが、本書ではそれ以外に様々な物語(エンターテイメント性のあるものから、伝承まで)も掲載されており興味深いです。
明治以前からのアイヌと和人の歴史も押さえられており、開拓者側からの北海道の歴史と合わせると何とも考えさせられますし、現代のアイヌについてやアイヌ語への取り組みも知ることができます。
巻末にはもう一歩踏み込んで「ゴールデンカムイ」を楽しむための、比較的読みやすいアイヌ関係の参考図書なども紹介されています。
漫画への愛情にラフな文体、著者の茶目っ気が垣間見えたりと、入門書として十分な情報量なのに一気に読めてしまいます。
ちなみにネットの情報で知ったのですが、アシリパさん表紙のカバーの下に、更に通常の新書のカバーがあって、二重になっているのですね。
漫画でモヤっとしていたところが本書で「なるほどそうか!!」となるところもあり、「ゴールデンカムイ」ファンとして楽しめる一冊だと思います。
著者:中川 裕
集英社新書 初版:2019年3月15日