日本人の魂の原郷 沖縄久高島

本書はカメラマンの著者により、久高島の数多くの祭祀について長期にわたり記録されたもので、過疎で消え行く祭祀の姿が非常に丁寧に記されています。
新書には勿体ないくらい充実した内容で、沖縄の信仰と精神文化を知る貴重な資料となっています。

久高島は沖縄本島の東南に位置する小さな島で、神話の島とも呼ばれニライカナイにつながる聖地として有名です。
琉球王朝時代は国王も巡礼した聖なる島なのです。

 東方の海の彼方(ニラーハラー)から来たアマミヤとシラミキヨにより島が創られた、島作り神話。
 久高島の対岸から船で渡ってきたシラタル(兄)とファガナシー(妹)が久高人の始祖となった、人創り神話。
 島の東海岸にあるイシキ浜に流れ着いた壷の中に五穀の種子が入っていたという、穀物伝来神話。

久高島には昔からの神話をベースにした自然崇拝、祖霊信仰があり、これらが琉球王朝時代に施行されるノロ制度と融合して独特のものとなり、神秘的な祭祀が多々執り行われています。
沖縄の自然信仰の最たるものは、御嶽(うたき)です。聖なるもの/ところと言われれば、ほとんどの人が寺社や仏像などをイメージすると思いますが、御嶽は森の空間や泉や川など、単に自然の一部です。それは集落跡など祖先崇拝につながるものであったり、生活で重要なところであったりと、古代から受け継がれた聖地なのです。
(本島の斎場御嶽のように観光化されているところもありますが、一般に御嶽・拝所は知らなければ気付かないため注意が必要とのこと。)

琉球の信仰では神に仕えるのは女性とされるため、聖地である御嶽は男子禁制です。
儀式はこれらの御嶽で行われるものも多く、多くの女性(神女)達が自然の中で祈る描写などは恐ろしいほど神秘的で、全国で数ある祭祀の中でも、最も神聖で繊細かつ謎めいた印象を受けます。

久高島で年間数多くの祭祀を執り行うのはノロと神女達です。
ノロとは王府から任命される女性神職者のことで、島の祭祀の司祭者として補佐役のウメーギとともに数々の司祭を執り行います。久高島には二つの始祖家があったため、その体系を引き継いで久高ノロと外間(ふかま)ノロという二人のノロが成立しました。(公式ノロは外間ノロ)
ノロは世襲制で引き継がれてきましたが、既に両ノロとも不在となっており、祭祀の存続はかなり危うい状況のようです。

久高島の祭祀の中で最も有名になったものはイザイホーだと思います。

イザイホーは、沖縄県南城市にある久高島で12年に一度行われる、久高島で生まれ育った三十歳以上の既婚女性が神女(神職者)となるための就任儀礼。基本的にその要件を満たす全ての女性がこの儀礼を通過する。(Wikipedia)

残念ながら、イザイホーは島の過疎化による新たな神女となる女性の不在と、儀式を執り行う神職者の逝去により、1878年を最後に行われていません。
本書もイザイホーに多くのページを割いています。四日間の祭祀を、丁寧な解説と共に時系列に追うことができます。

ちなみにイザイホーは1966年に島外からの取材を許可したことで有名になりましたが、その時に取材に来ていた岡本太郎氏が風葬の墓を荒らし死者を写真に撮ったことを知り、衝撃を受けました。

久高島とその秘祭イザイホーに惹かれ、色々調べているうちにこの本にたどり着きましたが、琉球の信仰を知るに、軽い興味で島に行ってみたいと思っていた自分が恥ずかしくなりました。

著者:比嘉 康雄
集英社 (集英社新書) 初版:2000年5月

参考サイト
沖縄観光・沖縄情報IMA(久高島)
http://www.okinawainfo.net/kudaka/index.html
久高島の祭「イザイホウ」と、島の風葬が殺された顛末
http://ep.blog12.fc2.com/blog-entry-853.html

新書 沖縄読本

本書は、沖縄ブームを作ったひとりと言われる著者が、そのブームの去った今、改めて沖縄に向き合い「癒しの島」でも「楽園」でもない沖縄について書いた本です。

なら戦争と基地問題でしょ?と思いがちですが、それだけではありません。
独自の歴史と文化が社会情勢と混ざり合って生まれた予想もつかない現在、知らなかった沖縄がそこにあります。

ヘルシーな食事で長寿の島だと思っていた沖縄のお年寄り(おじい、おばあ)はファストフードが大好きで実は不健康。
日本一貧しい県と言われる一方で、億単位の収入を得る軍用地地主が存在する驚くほどの格差社会。
夢と幻想を抱いてやってくる移住者はなかなか地元に溶け込めず、多くの人が本土に戻っている。
本土の人間は橋がかかって便利になると喜び、島の人々は文化が変わってしまうと嘆いている。
暢気に観光していては気付くことがない、日本(ヤマト)と沖縄の間の差別、偏見による深い溝。
出稼ぎや移民で海を渡った沖縄の人々の苦難とたくましさ・・・。

明るくない話の連続ではありますが、高校野球を熱狂的に応援する県民性がかいま見れたり(大阪は土地柄沖縄料理店が多いのですが、なぜか行く店皆、沖縄尚学か興南高校の優勝ペナントを飾っています。)現在のポップミュージック界を支える音楽が生まれた背景など、身近な話題もあり楽しめます。

個人的に面白かったのは中城高原ホテルについての章。このホテルはオープンしないまま建設途中で廃墟となり、今や廃墟ファンに大人気のポイントとなっていますが、ネットにある情報は廃棄探訪レポートばかりで若干消化不良でした。しかしこの本では、なんと当時の関係者のコメントや設計者まで紹介されていて驚かされます。

沖縄は、旅行に全く興味が無かった自分がはじめて”また行きたい”と思った特別な地ですが、青い海と白い砂を求めていては見えなかった沖縄の姿を知り、ますます興味が深まりました。
沖縄の「楽園」の顔も生活の場である「俗世」の顔も、それぞれ面白く飽きることがありません。

著者:下川 裕治、仲村 清司
講談社 初版:2012年2月