ガン遺伝子を追いつめる

感染性疾患の減少で、今や疾患による死亡率の第一位となったガン。
年をとってガンを患うことが多いのは何故?ガンにかかりやすさは遺伝も関係するらしいけど何で?
生物が生きていく上で、細胞の分裂はかかせない生命活動ですが、これは遺伝子によってそれぞれ綿密な分裂の制御がなされることによって成り立っています。通常の細胞は一定回数の分裂を行うと分裂は止まるように設計されています。また、生存に不利な条件になると(もちろん発生の過程などそうでない場合もありますが)細胞は自殺し(アポトーシスとよばれます)、結果生物自身の正常な状態を保ちます。この分裂や自殺のバランスが崩れることによって起こるのが、分裂が止まらない、いわゆる腫瘍(ガン)というわけです。
この本では、細胞の活動と遺伝子の関係を中心に、ガンがどのようなメカニズムで発生するかを解説しています。

まず細胞の活動とその制御について、クローン羊ドリーの年齢や老化と細胞、日焼けとアポトーシスなどわかりやすい話題で導入、次に様々なガン遺伝子について解説があり、遺伝子のちょっとした変化がどのようにガンを引き起こすかが話されます。(p53蛋白の遺伝子の話はNHKの「人体III」でも解説されていました。ちょっと記憶に曖昧ですが、わかりやすいCGもあったのではないでしょうか)
後半は胃ガン、肺ガン、乳ガンなど個々のメカニズムや、転移について、療法や医学のとりくみについてが書かれています。

専門用語はそれなりに多いですし、DNAの知識も必須になってきます。タンパクや遺伝子名にカタカナ、アルファベットが多いので、これが苦手な方にはちょっと辛いかもしれませんが、順に解説はされていますし、単語読み飛ばしでもニュアンスはわかります。
本来ガンを起こすためにある遺伝子など存在しませんし、関連遺伝子を「ガン遺伝子」とひとくくりに言ってしまう表現には語弊があります(この本でも同様の指摘があります)。
この本でガンのメカニズムと正しい「ガン遺伝子」の知識を得てなるほど!と思って頂きたいと思います。

著者:掛札 堅
文春新書 初版:1999年10月

遺伝子で診断する

2003年にヒトゲノム計画が完了したのは記憶に新しく、遺伝子情報は公共のものとする国際共同プロジェク「ヒトゲノム計画」と、発見した遺伝子に特許を求める民間企業のセレラ社との間で摩擦がおきたりと、今や「遺伝子の価値」を考えさせられる時代になっています。
遺伝子情報にどんな価値があるのかというと、これからの医療は遺伝子がメインになるということです。
ヒトの遺伝子配列が解明され、現在病気と遺伝子の関係が次々と明らかにされ、DNAの配列の違いがどのように病気を出現させるのかが研究されています。中でも「がん」を発症させる遺伝子のメカニズムが注目されました。

このように医療の分野では、ある遺伝子を持っているかどうかを見ることで病気になりやすいかどうかを判断し予防策をとったり、病気の早期発見が可能になったり、有効な治療(薬)の判断から個人に適した治療が考えられたりと様々なメリットがあります。
しかしながら、遺伝子診断によって遺伝病などへの差別がおきたり、病気になりやすいことがわかった後のケアなど問題点もまだまだあります。

この本では、遺伝子・DNA・遺伝子から生命が組み立てられること・ヒトゲノム計画と特定遺伝子をつきとめる方法など、まず「遺伝子」の基本的な話が解説されています。次に、遺伝子と病気について、具体例をあげて解説しています。病気ではないですが、「酒好き遺伝子」はあるか、なんて話題もあって、なかなかユニークです。メインは癌の話です。「がん遺伝子」とは何なのか、遺伝子と癌の関係似ついて多様な癌をとりあげ、病院で多くの癌患者と向き合った著者の思いが伝わる、丁寧な解説がされています。

全体を通して解説が丁寧で、専門用語もほとんど気にさせない話の流れに脱帽です。ポイントでは図もあり、難しい内容でも理解可能になっています。生物の知識が無くても大丈夫ですので、”最近話題になってるけど、「遺伝子と医療」ってどういうこと?”と思っている方におすすめです。時期的にヒトゲノム計画初期の頃の話であり、新鮮な医療の話はありませんが、「遺伝子と医療の関係とこれから」というテーマは古くないと思います。生物を学んでいる方々も視野を広げられると思います。

著者:中村祐輔
PHP新書 初版:1996年12月